大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和53年(ワ)4513号 判決 1979年8月15日

原告

三大物産株式会社

右代表者

木戸真一

右訴訟代理人

石塚久

被告

大新商事株式会社

右代表者

福原龍男

右訴訟代理人

鈴木勝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一若原行平が両角善吉から原告主張の店舗部分を賃借し、両角に対し敷金として金五〇〇万円を差し入れていたことは、当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、若原は、昭和五一年一〇月二一日、両角との間の本件賃貸借契約を合意解約すると共に、両角に対する右敷金返還請求権を原告に譲渡し、原告は若原の代理人として、両角に対し同年同月二二日到達の内容証明郵便をもつて、右債権譲渡の通知をしたこと、及び原告が若原を被告として東京地方裁判所に、両角の供託した後記供託金につき供託金還付請求権存在確認請求の訴を提起し、原告主張のとおり原告勝訴の判決の言渡があり、右判決が原告主張の日に確定したこと、を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二両角が、昭和五二年二月八日、債権者を確知しえないことを理由として、本件敷金の清算残金三〇二万五、一三三円を東京法務局に別紙目録記載のとおり供託したこと、及び右供託書に「追記」として原告主張内容の記載がなされていることは、当事者間に争いがなく、証人河本光夫の証言によれば、原告が前記確定判決に基づき右供託金の還付請求をしたところ、東京法務局から供託書中の前記「追記」の記載内容が供託金還付請求の障害事由に当たり、原告の還付請求についての被告の同意を証する書面の添付がない限り還付請求を受けえないものとされたことを認めることができる。

三被告は、被告のため本件敷金返還請求権には、原告の右債権の譲受前において、質権が設定され、これにつき確定日付のある承諾書を得ている旨主張するから、以下この点につき審究するに、<証拠>を総合すれば、被告は、昭和五一年八月末日頃、若原行平を連帯保証人として同人が代表取締役をしている有限会社高島屋酒店に金四三四万六、七〇〇円を貸与し、右債権を担保するため、若原の有する両角に対する本件敷金五〇〇万円の内金四〇〇万円の返還請求権に質権の設定を受け、かつ、これと相前後して、若原は、両角から右敷金返還請求権を担保として他に差し入れることについて承諾する旨の承諾書(乙第三号証)を受け取り、被告は右承諾書に昭和五一年九月一〇日付の確定日を得たことを認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。しかして、前掲乙第三号証の確定日付のある承諾書には、若原が自己の債務の担保として、本件敷金返還請求権を他に差し入れることを両角において承諾する趣旨の記載があるのみで、担保の形態が質権か譲渡担保かについての記載がなく、また、担保の差入先について何人であるかの特定を欠いているけれども、担保として差し入れることを承諾した以上、特段の事情の認められない本件においては、質権の設定についても両角において承諾したものと認めるを相当とし、また、民法第三六四条が質権設定について対抗要件として第三債務者の承諾を必要とした趣旨は、第三債務者の保護を目的とするものであるから、第三債務者が担保差入先を特定せずに承諾したからには、右の承諾も有効なものと解すべきである。したがつて、被告は、右質権をもつて債務者その他の第三者に対抗しうるものということができる。

原告は、敷金返還請求権は、賃貸借契約の存続期間中は、具体的な債権ではないから、質権の目的となしえない旨主張するが、敷金返還請求権は、賃貸借終了後賃借人の目的物の明渡時に効力を発生する停止条件付債権であるが、かような条件付債権についても、この種債権が譲渡可能なものであることは多言を要せず、そうである以上、これを目的とする質権を認めるにつき何らの妨げもないものと解すべきであるから、原告の右主張は理由がないものというほかない。

次に、原告は、原告が本件敷金返還請求権の譲渡を受け、対抗要件を備える前において、被告は右請求権を目的とする質権設定につき何らの対抗要件を備えていないから、原告に対抗しえない旨主張する。しかし、前記認定の事実によると、原告が本件敷金返還請求権につき対抗力を備えた昭和五一年一〇月二二日以前の同年九月一〇日、被告は本件敷金返還請求権を目的とする質権設定につき第三債務者の確定日付のある承諾書を得たものであること明らかであるから、原告の叙上主張も採用するに由ない。

四叙上認定したところによると、被告は、本件敷金返還請求権を目的とする質権を原告に対し対抗しうるものであるから、被告に対し右敷金返還請求権に代わる本件供託金の還付請求の同意を求める原告の本訴請求は理由がないものといわざるをえない。

五よつて、原告の本訴請求は、失当として、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(武居二郎)

別紙目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例